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月着陸船開発物語

15年以上前の夏の深夜に NHK で見て以来、From the Earth to the Moon はもっとも好きなのドラマシリーズの1つだ。特に月着陸船の開発をテーマにした第5話 “Spider” は特にお気に入りになっている。このエピソードの主人公にもなっているトム・ケリーが実際の月着陸船の開発について生々しく書いた本「Moon Lander」の翻訳版が、2月に「月着陸船開発物語」として出版されたので、発売直後に購入してようやく読み終えた。

ドラマの方では過去に前例のない月着陸船の開発に苦戦しつつも、最終的には月まで到達するという話でうまくまとまっていたが、この本に書かれた開発の実態はまさに壮絶なデスマーチであった。この本では受注獲得から実際のアポロ計画での飛行まで語られているが、NASA との契約後は繰り返される設計変更、製造後や納品後の品質問題、組織上の課題などによりスケジュールがどんどん遅延していく。著者のトム・ケリーも最初は主任設計者として月着陸船の設計を担当していたが、スケジュール遅延の責任をとらされる形で製造部門に異動を命じられ、自ら設計した月着陸船の製造を担当するなど、ドラマでは描かれないリアルなエピソードが満載でとても興味深かった。

特にスケジュール遅延とそのリカバリーに苦戦する様子は、今日の IT 業界でもよく語られる失敗談そのものであり、感動とは別の意味で涙なしには読めない内容になっている。そして最終的にスケジュール遅延から回復できたのはアポロ1号の火災事故によるアポロ計画全体の遅延によるものだったというから、なんとも言えない気持ちになる。

つい先日、ジェフ・ベゾス率いる Blue Origin が月着陸船の開発を発表した。発表自体はかなり政府に対するアピールの要素が強いと感じたが、この本に書かれた月着陸船の設計を思い出しつつ、Blue Origin の月着陸船の設計を見てみると技術の進化が感じられてまた面白いのだった。

Moto Ishizawa

Moto Ishizawa
ソフトウェアエンジニア。ロケットの打上げを見学するために、たびたびフロリダや種子島にでかけるなど、宇宙開発分野のファンでもある。